「48時間連続勤務明けでゴルフしたら、なぜかベストスコアだった」
これ、ある日曜の朝の話です。土曜の昼から日曜の朝にかけて脳外科の当直をこなし、そのまま着替えてゴルフ場へ向かいました。正直、スコアなんて気にする気力もなかった。ところが蓋を開けてみると……人生最高に近いスコアが出たんです。
この経験から、「疲労」と「パフォーマンス」の関係について、医師として改めて考えさせられました。
その日のコンディションを正直に書く
当直は前日13時スタート。夜中に緊急手術が1件入り、仮眠は合計3時間ほど。朝9時に病棟を出て、コンビニでおにぎりを1個食べて直接ゴルフ場へ。
ティーショットを打つ前、正直「前半で棄権してもいいや」と思っていました。ところが1番ホールのティーショットを打った瞬間、いつもと違う感覚があったんです。
「考えすぎていない」
普段、ティーショットを打つ前って頭の中がうるさいんです。「左に引っ張るな」「もっと右を向け」「体重移動を忘れるな」……。でもその日は脳が疲れ果てていて、そんな余計な思考が一切なかった。身体が勝手に動いた感じ。
スポーツ心理学で見ると「これ」が起きていた
後でスポーツ心理学の観点から振り返ると、これは「チョーキング(Choking)の逆現象」として説明できます。
チョーキングとは、プレッシャーによって過剰に意識的コントロールが働き、本来自動化されているスキルが崩れる現象。ゴルフではよく起きます。「絶対OBにしちゃいけない」と思えば思うほどOBになる、あれです。
当直明けは「前頭前野の活動が低下」した状態。前頭前野は理性的思考・意識的コントロールを担う部位です。つまり、疲弊することで意識的な「余計な指令」が減り、身体に染み込んだ技術がそのまま出た可能性があります。
脳外科医的な分析:なぜ「疲れていると上手くいく」のか
仮説①:デフォルトモードネットワーク(DMN)の過活動が抑制される
DMNは「ぼんやりしているとき」に活性化する脳のネットワーク。ゴルフでは「次のホールどうしよう」「あのミスを引きずる」という雑念がDMNと関連しています。疲労でDMNが静まることで、「今この一打」に集中しやすくなるのかもしれません。
仮説②:セロトニン・ノルアドレナリンのバランス変化
睡眠不足状態では、ノルアドレナリン(覚醒・集中を促す神経伝達物質)の分泌パターンが変化します。適度な覚醒状態が維持される一方、セロトニン不足により「不安反応」が起きにくくなる場合があります。ゴルフの場面では「怖さが減る」という形で現れることも。
仮説③:タスク切り替えによる「リセット効果」
手術・患者対応という極度の集中作業の後、全く異なる「ゴルフ」というタスクに切り替えることで、ある種のリセットが起きた可能性もあります。「仕事のことを一切忘れて打てる状態」になっていたとも言えます。
ただし「疲労ゴルフ」を推奨はできない
一応医師として正直に書きます。上記は「たまたまうまくいった1回の経験」であり、再現性があるかは不明です。睡眠不足は認知機能・反射速度・判断力を確実に低下させます。ゴルフはコース上を歩き回るスポーツですから、体調不良時のラウンドはケガのリスクもあります。
「疲れているときのほうが良いスコアが出る」という体験は、「いかに余計なことを考えずに打てるか」を教えてくれる体験として解釈するのが正しいと思います。
普段のラウンドに活かせる「考えすぎない技術」
①ルーティンを完全に固定する
打つ前の手順(素振りの回数・ボールの置き方・アドレス時の視線)を毎回同じにすることで、思考が「手順の実行」に移行し、余計な不安が入り込む隙間が減ります。松山英樹選手のアドレス時の静止が有名ですが、ルーティンは「思考の駐車場」としての機能を持ちます。
②「身体の感覚」に意識を向ける
「OBにするな」ではなく「グリップの感触」「右足の踏み込み」といった身体の感覚にフォーカスする練習をすると、前頭前野の過活動を自然と抑えられます。マインドフルネスの応用です。
③「結果」ではなく「プロセス」に集中する
「このホールでパーを取る」ではなく「このアイアンショットで、フォロースルーをしっかり出す」という思考に切り替えます。当直明けの私は、スコアのことを考える余裕がなかっただけで、結果的にプロセス集中になっていたのかもしれません。
まとめ:ゴルフは「考えすぎない」メンタルがベストスコアを生む
当直明けのベストスコアは、ある意味「本来の自分のゴルフ」を見せてくれた体験でした。余計な自意識がなく、身体に任せてクラブを振る。それが最も良いゴルフにつながる、というのは、プロゴルファーが「ゾーンに入る」と表現する状態と同じなのかもしれません。
脳外科医として神経科学の知識を持ちながら、ゴルフを楽しんでいる私にとって、この経験はとても示唆に富むものでした。皆さんも次のラウンドでは、ちょっとだけ「考えることをやめてみる」試みをしてみてください。


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