住宅購入 vs 賃貸|経済学的視点から見た最適解と医師が選ぶべき戦略

資産形成

「賃貸vs購入、どちらが得か」——これは人生最大級の財務的意思決定の一つです。MBAのコーポレートファイナンスで学ぶ「NPV(正味現在価値)分析」と「機会費用」の概念を使えば、感情論でなくデータで答えが出ます。脳外科医として多くの同僚医師のケースを見てきた経験も交えて解説します。

「持ち家有利」説の4つの根拠と反論

根拠①「家賃は捨て金」→ 反論:住宅ローン利息・固定資産税・維持費も「捨て金」

30年・3,500万円・金利1.5%のローンを組んだ場合、総利息額は約850万円。これは家賃と同様に「返ってこない費用」です。さらに固定資産税(年10〜20万円)、修繕積立金、リフォーム費用(30年で200〜400万円)を加えると、「持ち家の維持費」は想定以上に大きい。

根拠②「不動産は資産になる」→ 反論:日本の多くのエリアで不動産は値下がりする

総務省の統計によると、日本の空き家率は2023年時点で13.8%(約900万戸)、2033年には30%超になるとも予測されています。人口減少エリアでは不動産価格の長期低下が不可避です。東京・大阪・名古屋などの大都市圏は別として、多くの地方では「資産として残る」という前提が崩れつつあります。

根拠③「老後に家賃がかからない」→ 反論:老後のリフォーム費用・管理費が発生

築30年を超えた物件には大規模修繕(屋根・外壁・設備)が必要になり、数百万円単位の出費が発生します。「老後の家賃ゼロ」という前提は、修繕コストを加味すると崩れるケースが多いです。

NPV分析で「生涯コスト」を比較する

感情論を排除してNPV(正味現在価値)で比較します。仮定条件:東京23区外、物件価格5,000万円、家賃20万円、保有期間30年、割引率3%。

コスト項目持ち家(30年)賃貸(30年)
住居費(ローン返済/家賃)約7,200万円(元利)約7,200万円(20万×30年×12)
固定資産税・管理費約600万円0円
修繕・リフォーム約300万円0円(オーナー負担)
頭金の機会費用(運用損失)約1,000万円(500万円を5%運用した場合)0円(頭金不要)
30年後の資産価値−約2,000万円(資産として残る)0円
実質生涯コスト約7,100万円約7,200万円

この試算では30年でほぼ拮抗します。「持ち家が絶対に得」とも「賃貸が絶対に得」とも言えない——これが正直な答えです。

医師が持ち家を選ぶべきケース・賃貸を選ぶべきケース

持ち家有利賃貸有利
勤務形態長期安定(開業医・特定病院に根付いている)転勤・転職可能性あり(勤務医・研修中)
家族構成家族が多く・子供の学区が固定している独身・夫婦2人・子供がまだいない
エリア東京・大阪・名古屋など人口増加エリア地方・人口減少エリア
投資スタンス安定志向・リスク回避型余剰資金を積極的に株式投資する場合

脳外科医として考える「住む場所の選択」の本質

私が最も重要だと考えるのは、「どこに住むか(立地)」と「どう住むか(持ち家・賃貸の形式)」を分けて考えることです。

仕事へのアクセス・家族の生活環境・職場との距離——これらは「どこに住むか」の問題です。持ち家か賃貸かは「その場所でどういう形で住むか」という別の問題です。良い立地の賃貸に住みながら金融資産をしっかり積み上げ、十分なキャッシュと確信が生まれた段階で購入を検討する。これが医師にとって最もリスクの低い戦略です。

まとめ:「正解」はなく「自分に合った選択」がある

  • 生涯コストは30年スパンで見るとほぼ拮抗する
  • 持ち家の優位性は「大都市圏の立地」と「長期安定居住」が前提
  • 賃貸の優位性は「流動性」と「頭金の運用機会」
  • 医師は転勤・転職リスクも考慮し、早期購入より慎重な判断が有利なことが多い

参考文献:Shiller RJ. “Irrational Exuberance.” Princeton University Press. 2015. / 総務省統計局「住宅・土地統計調査」2023年。

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