脳外科手術は、数時間〜十数時間にわたる極度の集中を要求します。顕微鏡越しに1ミリ以下の血管を操作しながら、同時に患者のバイタル・チームとのコミュニケーション・次の手順を頭の中で処理し続ける。
「そんな仕事で集中力を持続させる秘訣は?」とよく聞かれます。今回は私が実践している集中力維持のルーティンを、神経科学の知見も交えながら紹介します。
前日夜のルーティン
①22時には画面を切る
スマートフォン・PC・テレビのブルーライトは、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を抑制します。就寝2時間前からは意識的に画面から離れることで、睡眠の質が変わります。
医師は深夜まで論文を読んだり、当直前に情報収集したりしがちですが、「睡眠時間の確保」こそが翌日のパフォーマンスに最も直結するとデータが示しています。Walker博士の研究(”Why We Sleep”)によれば、睡眠不足は認知能力・意思決定力・感情調節を著しく低下させます。
②翌日の手術イメージトレーニング(10分)
就寝前10分で、翌日の手術の流れを頭の中でリハーサルします。「開頭の角度」「クリップ位置」「予期されるリスクポイント」をイメージしておくことで、当日の意思決定が速くなります。
これはスポーツ心理学の「メンタルリハーサル」と同じ技法です。脳はリアルな行動とイメージ上の行動を完全には区別せず、イメージトレーニングでも運動野が活性化することが研究で示されています。
当日朝のルーティン
③必ず朝食を取る(タンパク質中心)
忙しい朝でも朝食だけは欠かしません。特に卵・ヨーグルト・プロテインなどタンパク質を中心に摂取します。
理由は単純で、脳はブドウ糖を主なエネルギー源とし、タンパク質は神経伝達物質(ドーパミン・セロトニン)の原料になります。朝食を抜くと午前中の認知機能が低下するという研究は多数あります。長時間手術が控えている日は特に意識しています。
④「3つのプライオリティ」を書き出す
手術前、その日最も重要な3つのことだけをメモ帳に書きます。「今日の最重要手術の要注意点3つ」という形で。
これは「ワーキングメモリの外付け化」です。人間のワーキングメモリ(短期記憶)は7±2チャンクが限界とされており、重要情報を頭の外に書き出すことで脳の処理リソースを本来の集中に使えます。
手術中・仕事中のルーティン
⑤「ゾーン」に入るトリガーを作る
手術を始める前に、特定のルーティン動作(手洗い・ガウン着用の手順)を毎回同じ順番で行います。これはルーティンによって「今から集中モードに入る」という脳へのシグナルになっています。
スポーツ選手でいえば、松山英樹選手のアドレス前のルーティン、大谷翔平選手のバッターボックス前の動作と同じ原理です。ルーティンは「集中の入り口」として機能します。
⑥90分サイクルで休憩を取る
人間の集中力は「ウルトラディアンリズム」と呼ばれる約90分サイクルで波があることが知られています。90分の高集中期の後、20分程度の休息を取るとパフォーマンスが回復します。
長時間手術では途中で別の医師に交代する仕組みがありますが、外来・カンファレンス・書類業務など連続する日は、意識的に90分ごとに5〜10分の休憩を挟むようにしています。
ゴルフへの応用:同じルーティンがスコアを安定させる
おもしろいのは、これらのルーティンがゴルフにもそのまま応用できることです。
前日のイメージトレーニング(コースを頭の中でラウンドする)、当日朝の朝食と「今日意識すること3つ」の書き出し、各ショット前の固定ルーティン——どれも仕事で実践しているものと本質は同じです。
脳の集中メカニズムは、手術でもゴルフでも変わりません。仕事で培った集中力のルーティンをゴルフに持ち込むことで、スコアも安定してきました。
まとめ:集中力は「偶然のもの」ではない
集中力は「その日のコンディション任せ」ではなく、意図的に設計できるものです。睡眠・食事・イメージトレーニング・ルーティン——これらを習慣化することで、安定したパフォーマンスが出せるようになります。
仕事でもゴルフでも資産形成でも、長期で成果を出すためには「集中できる状態を作る仕組み」が土台になると感じています。


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